大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成4年(わ)265号・平4年(わ)538号・平4年(わ)789号 判決

主文

被告人を懲役二年及び罰金二〇〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(犯罪事実)

被告人は、全国自由同和会和歌山県経済商工連合会(以下「経商連」という。)会長であったもの、濵野日出雄は、同連合会副会長であったもの、谷口清次は、同連合会事務局長であったもの、北田叔男は同連合会の事務に関与していたものであるが、

第一  木下勝二が実弟の木下晟と共有の不動産を平成元年一一月に売却譲渡したところ、被告人は、濵野日出雄、北田叔男、木下勝二及び木下晟と共謀の上、木下勝二の所得税を免れようと企て、同人は他の所得がなく、平成元年分の分離長期譲渡所得金額が二億一三四二万〇一六〇円(別紙一の1修正損益計算書参照)であったのに、虚偽の領収証を作成して架空の譲渡原価を計上する方法により同人の所得の一部を秘匿して、平成二年三月一五日、大阪府泉佐野市下瓦屋三丁目一番一九号所在の所轄泉佐野税務署において、同税務署長に対し、木下勝二の平成元年分の分離長期譲渡所得金額が一七四二万〇一六〇円で、これに対する所得税額が三三六万五八〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を経過させた。その結果、同人の平成元年分の正規の所得税額五一二〇万七二〇〇円との差額四七八四万一四〇〇円(別紙一の2税額計算書参照)を免れた、

第二  木下晟が実兄の木下勝二と共有の不動産を前記のとおり平成元年一一月に売却譲渡したところ、被告人は、濵野日出雄、北田叔男及び木下晟と共謀の上、木下晟の所得税を免れようと企て、同人の平成元年分の損益通算後の分離長期譲渡所得金額が九九二七万一一七五万(事業所得は三一二一万六九〇四円の損失、雑所得は一一三一万円、分離長期譲渡所得金額は一億一九一七万八〇七九円。別紙二の1所得金額計算書、別紙二の2修正損益計算書、別紙二の3税額計算書参照)であったのに、虚偽の領収証を作成して架空の譲渡原価を計上するなどの方法により所得の一部を秘匿して、平成二年三月一五日、前記泉佐野税務署において、同税務署長に対し、木下晟の平成元年の損益通算後の分離長期譲渡所得金額が五九〇万二三五一円(事業所得は四四二一万六九〇四円の損失、分離長期譲渡所得金額は五〇一一万九二五五円と申告)で、これに対する所得税額が九八万六八〇〇円(ただし、申告書では、計算違いにより、税額九一万六八〇〇円と記載)である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を経過させた。その結果、同人の平成元年分の正規の所得税額二二五七万五五〇〇円との差額二一五八万八七〇〇円(別紙二の3税額計算書参照)を免れた、

第三  杉谷百登美が自己所有の不動産を平成二年一月及び二月に売却譲渡したところ、被告人は、谷口清次、北田叔男、杉谷百登美及び同女と同居していた樫木大士と共謀の上、杉谷百登美の所得税を免れようと企て、同女の平成二年分の総合課税の総所得金額が二一九万九四〇〇円、分離長期譲渡所得金額が五億六七二二万〇七五二円(別紙三の1所得金額計算書、別紙三の2修正損益計算書参照)であったのに、虚偽の領収証を作成して架空の譲渡原価を計上するなどの方法により所得の一部を秘匿して、平成三年三月一四日、前記泉佐野税務署において、同税務署長に対し、その総合課税の総所得金額が二一九万九四〇〇円、分離長期譲渡所得金額が六四九二万三六七七円で、これに対する所得税額が一四二五万七七〇〇円(ただし、申告書では計算違いにより、税額一四二三万〇七〇〇円と記載したもの)である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を経過させた。その結果、平成二年分の正規の所得税額一億三九八三万二〇〇〇円との差額一億二五五七万四三〇〇円(別紙三の3税額計算書参照)を免れた、

第四  小島宏之が自己所有の不動産を平成元年六月に売却譲渡したところ、被告人は、濵野日出雄、北田叔男、小島宏之及び同人の妻である小島好子と共謀の上、小島宏之の所得税を免れようと企て、同人の平成元年分の総合課税の総所得金額が四〇六万二一九〇円、損益通算後の分離長期譲渡所得金額が二億一九八〇万八六四八円(分離短期譲渡所得は五二万六四六二円の損失、分離長期譲渡所得金額は二億二〇三三万五一一〇円。別紙四の1所得金額計算書、別紙四の2修正損益計算書、別紙四の3税額計算書参照)であったのに、虚偽の不動産売買契約書を作成して土地譲渡金額を圧縮し、さらに虚偽の領収証を作成して架空の譲渡原価を計上するなどの不正の行為により、その所得の一部を秘匿した上、平成二年三月一五日、和歌山市湊通丁北一丁目一番地所在の所轄和歌山税務署において、同税務署長に対し、平成元年分の総合課税の総所得金額が四〇六万二一九〇円、損益通算後の分離長期譲渡所得金額が四七九万七六一三円(分離短期譲渡所得金額は一六万八六九四円の損失、分離長期譲渡所得金額は四九六万六三〇七円と申告。)で、これに対する所得税額が一二〇万九五〇〇円(ただし、申告書は、計算違いにより九九万三二〇〇円と記載。)である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を経過させた。その結果、平成元年分の正規の所得税額五三二〇万二一〇〇円との差額五一九九万二六〇〇円(別紙四の3税額計算書参照)を免れた、

第五  土井肇が実父土井忠次の代理人として同人所有の不動産を平成二年三月に売却譲渡するとともに同人の同年分の確定申告に関与したものであるところ、被告人は、谷口清次、北田叔男、全国自由同和会大阪経済商工連合会事務局長であった松井こと高田良一及び土井肇と共謀の上、土井忠次の所得税を免れようと企て、同人の平成二年分の総合課税の総所得金額が三二六万五八七〇円、分離短期譲渡所得金額が二九二万五三七五円、分離長期譲渡所得金額が五億〇四八一万五四八五円(別紙五の1所得金額計算書、別紙五の2修正損益計算書参照)であったのに、虚偽の領収証を作成して架空の譲渡原価を計上するなどの方法により所得の一部を秘匿して、平成三年三月一四日、大阪府富田林市若松町西二丁目一六九七番地の一所在の所轄富田林税務署において、同税務署長に対し、その総合課税の総所得金額が三二六万五八七〇円、分離短期譲渡所得金額がなく、分離長期譲渡所得金額が六五〇一万三〇〇〇円で、これに対する所得税額が七七九万六〇〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を経過させた。その結果、平成二年分の正規の所得税額七四四二万四六〇〇円との差額六六六二万八六〇〇円(別紙五の3税額計算書参照)を免れた、

第六  谷澤精が自己所有の不動産を平成二年一〇月に売却譲渡したものであるところ、被告人は、谷口清次、北田叔男及び谷澤精と共謀の上、同人の所得税を免れようと企て、同人は他の所得がなく、平成二年分の分離長期譲渡所得金額が三億三〇六九万一三六〇円(別紙六の1修正損益計算書参照)であったのに、虚偽の領収証を作成するなどして架空の譲渡原価を計上する方法により所得の一部を秘匿して、平成三年三月一二日、和歌山県那賀郡粉河町大字粉河一五一四番地所在の所轄粉河税務署において、同税務署長に対し、分離長期譲渡所得金額が三九九三万五〇〇〇円で、これに対する所得税額が七七九万〇六〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を経過させた。その結果、平成二年分の正規の所得税額八〇四一万九〇〇〇円との差額七二六二万八四〇〇円(別紙六の2税額計算書参照)を免れた、

第七  阪口峯次が自己所有の不動産を平成二年二月に売却譲渡したものであるところ、被告人は、谷口清次、北田叔男及び阪口峯次と共謀の上、同人の所得税を免れようと企て、同人の平成二年分の総合課税の総所得金額が一二三万六七五〇円、分離長期譲渡所得金額が二億九七六五万六六〇〇円(別紙七の1所得金額計算書、別紙七の2修正損益計算書参照)であったのに、虚偽の領収証を作成するなどして架空の譲渡原価を計上する方法により所得の一部を秘匿して、平成三年三月一五日、前記粉河税務署において、同税務署長に対し、その分離長期譲渡所得金額が三八四六万六〇〇〇円で、これに対する所得税額が七六九万三二〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出(ただし、総合課税の総所得金額については、平成三年三月一二日、一二三万六七五〇円である旨の所得税確定申告書を別途提出)し、そのまま法定納期限を経過させた。その結果、平成二年分の正規の所得税額七二二九万七五〇〇円との差額六四六〇万四三〇〇円(別紙七の3税額計算書参照)を免れた

ものである。

(証拠の標目)

注 括弧内の数字は検察官請求番号を示す。

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  第一、二〇、二四、二五回公判調書中の被告人の各供述部分

一  被告人の検察官調書(六六、六七)

一  谷口清次(八五ないし八七、八九)、北田叔男(九五、九六、一八〇、一八三)、濵野日出雄(七六、七七)の各検察官調書

判示第一ないし第四の事実について

一  楠本一夫(二一〔一三八は同じもの〕)の検察官調書

判示第一ないし第三の事実について

一木寛邦(三七)の検察官調書

判示第一、第二及び第四の事実について

一  上野易子(三〇〔一四四は同じもの〕、三一〔一四五は同じもの〕)、仲西快勝(三二〔一四六は同じもの〕)、傍木佐知子(三三〔一四七は同じもの〕)、村岡清和(三五〔一四九は同じもの〕)の各検察官調書

判示第一及び第二の事実について

一  被告人の検察官調書(六九)

一  第一回公判調書中の木下晟の供述部分

一  木下晟(四四から四八、五〇から五四)、刀谷浩子(一八)、東定夫(一九)、山西良子(二八)、濵野日出雄(七八)、北田叔男(九七、九九)の各検察官調書

判示第一及び第三の事実について

一  被告人の検察官調書(六四)

判示第一の事実について

一  第一回公判調書中の木下勝二の供述部分

一  木下勝二(三九から四一)の各検察官調書

一  査察官調査書(七)

一  脱税額計算書(一)

一  証明書(二)

判示第二の事実について

一  木下晟(四九)、井上嘉久(二六)、屋野博司(二七)の各検察官調書

一  査察官調査書(八から一二)

一  脱税額計算書(三)

一  証明書(四)

判示第三及び第四の事実について

一  淡路登規子の検察官調書(三四〔一四八は同じもの〕)

判示第三及び第五の事実について

一  楠本一夫(二二〔一三九は同じもの〕)、村岡清和(三六〔一五〇は同じもの〕)の各検察官調書

判示第三の事実について

一  被告人の検察官調書(六八)

一  第一回公判調書中の杉谷百登美、樫木大士の各供述部分

一  杉谷百登美(五七から六一)、門脇一八(二〇)、道浦暁子(二三)、島田健哉(二四)、谷口清次(八八)、北田叔男(九八)、樫木大士(一〇八から一一〇)の各検察官調書

一  査察官調査書(一三から一七)

一  脱税額計算書(五)

一  証明書(六)

判示第四及び第五の事実について

一  被告人の検察官調書(一六七)

一  北田叔男の検察官調書(一八一)

判示第四の事実について

一  被告人の検察官調書(一六八)

一  山西惠夫(一四一)、山西良子(一四二)、小島好子(一五一から一五三)、菅原靖夫(一三六)、小島宏之(一五七、一五八)北田叔男(一八七)、濵野日出雄(一七一から一七三)、和田成生(一二八)、和田勇明(一二九)、高弘毅(一三七)の各検察官調書

一  査察官調書(一二〇から一二二)

一  脱税額計算書(一一五)

一  証明書(一一七)

判示第五の事実について

一  被告人の検察官調書(一七〇)

一  第一回公判調書中の土井肇、松井こと高田良一の各供述部分

一  土井肇(一六一から一六四)、藤田稔(一三〇)、山本辰巳(一三一)、高橋義孝(一三二)、土井忠次(一三三)、谷口清次(一七五、一七六、一七八)、北田叔男(一八六)、松井こと高田良一(一九一、一九四、一九五)の各検察官調書

一  査察官調書(一二三から一二六)

一  脱税額計算書(一一八)

一  証明書(一一九)

判示第六、第七の事実について

一  被告人の検察官調書(二二三、二二四)

判示第六の事実について

一  第一回公判調書中の谷澤精の供述部分

一  谷澤精(二一四から二一六)、本田雄次(二〇八)、丸山達雄(二〇九)、谷口清次(二二七)、北田叔男(二二八)の各検察官調書

一  査察官調査書(二〇三、二〇四)

一  脱税額計算書(一九八)

一  証明書(一九九)

判示第七の事実について

一  第一回公判調書中の阪口峯次の供述部分

一  阪口峯次(二一九から二二一)、坂本裕(二一〇)、廣畑善弘(二一一)、岡本宏(二一二)、岡本勝代(二一三)、谷口清次(二二六)、北田叔男(二二九)の各検察官調書

一  査察官調査書(二〇五から二〇七)

一  脱税額計算書(二〇〇)

一  証明書(二〇一、二〇二)

(法令の適用)

1  罰条 いずれも刑法六〇条、六五条一項、所得税法二三八条一項(判示第五の所為につき、更に、所得税法二四四条一項)

2  刑種の選択 いずれの罪についても懲役刑及び罰金刑を併科

3  併合罪の処理 懲役刑につき刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重)

罰金刑につき刑法四五条前段、四八条二項

4  労役場留置 罰金刑につき刑法一八条

5  訴訟費用の負担 刑事訴訟法一八一条一項本文

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、被告人が錯誤に基づき本件犯行を行ったものであるから、違法性の意識はなく、犯罪とならない旨主張するので、この点について判断する。

まず、架空の造成費用の計上及びその領収証の申告書への添付という脱税の方法を採っていること自体、同和団体が申告するからといって特別に税額が軽減されるものではないことを認識していたことを示すものである。さらに、

1  被告人は、田辺税務署長宛の要望書(弁五〇)及び国税局長宛平成元年一二月一二日付け要望書(弁五一)を提出する際、納税について従来から行われていた特別の配慮を得られることを確認した旨供述するが、税務署長宛の要望書の内容は、新年のあいさつの後、全国自由同和会和歌山県連合会で申告していたが、平成元年から全国自由同和会和歌山県経済商工連合会で提出するようになった旨の要望書にすぎず、また、被告人が国税局長等に要望し、その了解を得たというものの、その根拠とするところは、被告人自身公判廷で認めているとおり、被告人らが要望して、その要望に対する国税局の明確な返答はなかったというのであり、また、提出した要望書の内容自体、「3 近商連が指導し、近商連を窓口として提出される白・青色を問わず自主申告については全面的にこれを認める。ただし内容調査の必要ある場合には近商連を通じて近商連と協力して調査にあたる。」というものであって、その文面上、近畿経済商工連合会が窓口となって納税申告をすることを要望していることは明確であるが、同時に税務調査がありうることを前提としているのであって、被告人が供述するように、申告書の内容を何ら検討することなく全面的に認めて事実上税額を軽減することまでをも求める内容を持つものとは認められず、結局、被告人は、右のような抽象的な内容の要望書を提出した際、その内容について特に異議を言われなかったので、税額を軽減してもらえるものと思ったというのであるが、文面の内容から見て、右供述は信用できない。

2  被告人は、平成元年一〇月二四日に東京の国税庁で、参事官や参事官補と会って、昭和四五年になされた長官通達が係属されることを確認したことなどを述べている。しかし、右昭和四五年の長官通達(弁四九)は、「同和地区納税者に対して、今後とも実情に則した課税を行なうように配慮すること」という文面にとどまり、被告人らが主張するように、同和地区納税者の税負担を軽減する趣旨とまでは解せられない。

3  被告人は、公判廷において、被告人が昭和六三年に田辺税務署へ行ったとき、田辺税務署の総務課長から、申告はオープンにして、ダミー会社を使うなどの小細工をしないように、土木請負契約に基づいて申告書を作成すれば、追跡調査はしないなどと言われ、それに従ったものである旨供述するが、捜査段階では、被告人が昭和六三年春頃、右総務課長の所へ行き、一般的に譲渡所得を申告するときに控除できる費用について尋ねた際、右総務課長は「土地譲渡所得の控除は、いろいろありますが、例えば、土地を造成した費用などがありますが、きちんとした契約書や見積書が付いていて、金を支払ったという領収書がないと、なかなか認めてもらえませんよ。」と、被告人の一般的な質問について通常の処理方法の説明をしたにすぎず、それを聞いた被告人が、造成費用などを計上すれば、申告所得が少なくなると考え、当時、倒産して全く仕事をしていない楠本組を利用して架空の領収書等を作ることを思いついた旨供述していたものであり、被告人の右公判供述と矛盾した内容となっており、公判供述のような事実があったかについては疑問である上、本件において被告人らは、不動産の譲渡と関係のない建設会社による架空の造成工事の契約書や虚偽の領収証等を作成して架空の造成費を計上しているのであって、まさにダミー会社を使わないようにという係官の指導に反して脱税工作を行っているのである。

4  被告人は、他の同和団体に対して、納税につき有利な取扱がなされていたので、そのような認識の下で行なったものであると主張する。なるほど、実際には、ある程度有利な取扱がなされていると被告人が認識してもやむを得ないとも言いうる状況があったことは、必ずしも否定できないが、本件のように、納税率が五ないし一〇パーセントであるとまでの認識を持つような状況は全くなく、むしろこのような極めて低率な納税率で申告しようと決定、指示したのは、被告人の発想であり、被告人が行なった本件各行為が法律上許されているとまで認識し得る状況にはなかったものである。

5  被告人は、公判廷において、いわゆる税対策は、同和地区の住民の生活向上のために行うものであるから、特に税金を減軽してもらえると認識していた旨供述するが、本件各証拠によれば、被告人が納税の申告を請け負ったのは、ほとんど同和地区外の出身者であり、この点について、被告人は捜査段階においては、同和関係者だけを対象にしていては、件数が少なく、ひいては脱税額も少なく、報酬も少なく、稼ぐ金額も少なくなるため、本来なら同和地区の者に限ると指示しなければならないが、儲からないので同和地区の者に限るとは言わなかった旨述べている。公判廷では、同和地区出身でないことを知らなかったと述べているが、公判供述は必ずしも信用できないものの、何らその点の確認をとる方法を決めないまま犯行に及んでおり、同和地区出身者かどうかは、申告のための重要な要素とは考えていなかったことが認められる。

以上の各事実を総合すれば、被告人に本件犯行を実行するについて、違法性の意識がなかったことを窺わせる証拠はなく、よって弁護人の主張は採用できない。

なお、被告人は、小島宏之の平成元年度分の脱税について、濵野が虚偽の不動産売買契約書を作成していることは知らなかったと主張するが、正当な税額の五パーセントから一〇パーセントの納税額にする意図で右濵野にその旨の不正工作を指示していたのであり、その方法に具体的な差異があったとしても、犯罪の成立について故意を阻却することにはならない。

(量刑の事情)

本件各犯行は、脱税の請負をすることを主たる目的として設立された同和団体の下部組織である経商連の会長である被告人が副会長の濵野、事務局長の谷口、事務に関与していた北田らと共謀して、多くの依頼者の納税申告に関与し、平成元年から平成二年まで合計七回にわたり納税義務者七名の所得税の脱税を計ったもので、合計四億五〇〇〇万円余をほ脱させたというものであって、組織的で大掛かりな犯行であり、その犯行態様は、ほ脱税額が前記のとおり高額であり、ほ脱率も約九〇パーセントから九八パーセントといずれも高率である他、申告に際し、架空の請負工事契約書や領収証などを作成し、申告率を五パーセントから一〇パーセントと一律に決め、ほ脱額の約半分をカンパ金という名目で取得するなど、極めて計画的で悪質である。また、脱税請負により手っ取り早く活動資金を稼ごうという行為は手段を選ばぬ安易な犯行として非難されるべきものである。中でも被告人は、右経商連の設立を積極的に推進し、自ら会長となるとともに、右のような脱税方法、正規の税額に対する申告納税額や脱税報酬の割合を同和団体主催の幹部研修会の席で指示し、特に納税率については、他の幹部らから余りに低過ぎるのではないかという忠告があったにもかかわらず、これを聞き入れずに、強く五パーセントから一〇パーセントでの納税を指示し、申告は必ず被告人を通すように指導するなど、本件各犯行において主導的な役割を果たしたことが認められるのであって、被告人の犯情は極めて悪質であって、その刑事責任は重いと言わなければならない。

ところで、被告人が受け取った脱税報酬のうち、被告人の手元に残った額を超える九六〇〇万円を納税義務者に返還していること、被告人が本件各犯行に及んだ動機は、犯行当時、「地域改善対策特定事業に係る財政上の特別措置に関する法律」が平成四年三月で失効すると考えられたため、それに備えて同和運動の資金を蓄え、あるいは、自己の関係している同和対策事業(資源開発協業組合、天神釦)を円滑に進めること等にあり、単なる私利私欲を貪るために犯行を実行したわけではないこと、被告人は、全日本同和会和歌山連合会会長、全国自由同和会和歌山県連合会名誉会長、同常任顧問、全国自由同和会教育啓発委員長等を歴任するなど、長年にわたって同和活動に従事してきている他、田辺市議会議員、町内会長等の公務に就いて地域に貢献してきたこと、被告人には、古い罰金の前科があるだけで懲役刑の前科はないこと、被告人は、本件事件により逮捕後、現在では前記の役職から全て退いていること、被告人は高齢であり、現在肝炎の治療を受けるなど病身であること、既に述べたように、被告人自身同和団体については特別な取扱があると認識し、そのような認識の下で本件各犯行を犯したものであると主張しているところ、当裁判所で取調べた全証拠によっても、そのような税務行政が全くなされていないとまでは断定できず、税務当局側の同和団体に対する不明確な税務行政が被告人らの本件犯行を助長した面は否定できないこと、被告人は、現在では、自己の行為が脱税となることを認識し、その責任について十分反省している旨述べていること、その他、被告人の生育歴等、被告人に斟酌すべき事情が多々存在するが、このような有利な事情を最大限に考慮しても、本件事件の責任の重大性に鑑み、主文の実刑はやむを得ないと判断した次第である。

よって主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中正人 裁判官 松下潔 裁判官 中牟田博章)

別紙一の1 修正損益計算書

<省略>

別紙一の2 税額計算書

<省略>

別紙二の1 所得金額計算書

<省略>

別紙二の2 修正損益計算書

<省略>

別紙二の3 税額計算書

<省略>

別紙三の1 所得金額計算書

<省略>

別紙三の2 修正損益計算書

<省略>

別紙三の3 税額計算書

<省略>

別紙四の1 所得金額計算書

<省略>

別紙四の2 修正損益計算書

<省略>

別紙四の3 税額計算書

<省略>

別紙五の1 所得金額計算書

<省略>

別紙五の2 修正損益計算書

<省略>

別紙五の3 税額計算書

<省略>

別紙六の1 修正損益計算書

<省略>

別紙六の2 税額計算書

<省略>

別紙七の1 所得金額計算書

<省略>

別紙七の2 修正損益計算書

<省略>

別紙七の3 税額計算書

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!